帆船豆知識 №10

mamechishiki 10 00例会で出た素朴な疑問にお答えする帆船についての豆知識のコーナーです。
今回の質問は?
ヤードの中央を8角形にしますが、これって国・時代で変化があるの?

ヤードの中央を八角形に加工するのは、モデラーとしては半ば常識ですが、素朴な疑問として
バイキング船では? サンタマリアでは? カティサークでは?
と疑問がでてきました。

バイキング船を見てみましょう。
CogsCaravels and Galleons The Sailing Ship 1000 1650Cogs, Caravels and Galleons: The Sailing Ship 1000 1650という本をみてみると

バイキング船、コグ船、キャラック船をみてもヤードの中央は八角形ではなく丸のままです。

 

Tudor Warship Mary Rose (Anatomy of The Ship)キャラック船の大型船、メアリー・ローズについて書かれた
Tudor Warship Mary Rose (Anatomy of The Ship)
を見てみるましょう。

 

 

 メインのロアー・ヤードは二本の材をスカーフ・ジョイントし、中央で3箇所ウールディング:ロープを巻いています。

 

ガレオンを見てみます。有名なソブリンオブザシーズをみると
Sovereign of the Seas 1637:

A Reconstruction of the Most Powerful Warship of Its Day

で確認しますとヤードの中央は八角形ではなく丸のままです。

 

 

17世紀後半に作られたオランダ船ウイリアム・レックスWilliam Rexの模型が、アムステルダムの海洋博物館にあります。

mamechishiki 10 02それをみるとヤードの中央は八角形ではなく丸のままです。

 

 

同じ時代の船でも英国の1681年進水の4等級艦のフリーゲート艦Tygerについて、本がありますThe Master Shipwright’s Secrets: How Charles II Built the Restoration Navy

に詳しく記載されています。

ヤード_中央 八角形ヤードの中央は八角形に削られています。

国によって違いがあるようです。

 

 

74門艦になると、英国もフランスも中央は八角形になっています。
カティサークでは、トゲルン、ロイヤルスカイセイルヤードは中央部が八角形にロアーは丸のままと記載されています。

Cutty Sark”: The Ship and a Model C. Nepean Longridge著

 

 

 

 

 


ではリギングの解説書を見てみましょう。
The Rigging of Ships in the Days of the Spritsail Topmast1600 1720アンダーソン著のThe Rigging of Ships: in the Days of the Spritsail Topmast, 1600-1720の57ページに次の記述があります

ヤード中央の八角形は、StGeorge1698年と18世紀初頭の模型に見られる。1675年以降に導入されたかもしれない。
フランスとオランダには見られない。


The Masting and Rigging of English Ships of War 1625 1860次にこれも名著ですがThe Masting and Rigging of English Ships of War, 1625-1860
という英国軍艦の帆装の大作ですが、13ページには、1690年までは丸く、1690年以降にヤードの中央部1/4の長さの部分が八角形に残されていた。
1773年からは、大型船では、ヤードを二本の材をスカーフジョイントするために八角形に残すのではなく、1/4も長さのバテンを八角形に釘付けした。とあります。


 

これも著名な書ですが、18世紀の英国だけでなく各国のリギングをまとめた解説書です。

Eighteenth-Century Rigs & Rigging

18世紀の世界の帆走についてまとめた大作ですが、32ページに次の記述があります
最初完全に丸だったヤードは、17世紀末から内側の1/4が8角形に作られた。
1本材から作られたが、1770年から大型船のメインとフォア・ヤードが二本材で構成されるようになる。
18世紀最後の四半世紀から2インチ厚さの平らな板で周囲を覆うようになる。
クロスジャックヤードは1750年までは丸だが、それ以降は16角形になっていた。
フランスでは英国の影響を受けずに全て丸いが、大型船とくに戦列艦は例外。18世紀後半にヤード中央が八角形になっていた。(ヤードの直径の5倍の長さ)

Sailing Ships of War 1400最後にSAILING SHIPS OF WAR 1400-1860
この本も17世紀、18世紀、19世紀と分けて帆走、大砲などを詳細に解説しています。

131ページに
ヤードは円形で端に向かって先細りになっていた。しかり英国艦のロワー・ヤードの中央は、八角形に作られていた。
とさらっと記述されています。


 

結論としては17世紀末から英国艦はヤードの中央が八角形。大型船のヤードは1本では短いので、二本つなぐために中央の継ぎ手を補強したと思われます。
ただ英国ではアラートの様な小型艦でもキッチリヤードの中央は八角形です。
そうすると、フランス艦でもオランダ艦でも大型艦は英国と同じだと思いますが、オランダ艦について、アムステルダムの海洋博物館の模型を見てみましょう。

mamechishiki 10 031747年の東インド会社の船です。

キッチリとヤードの中央部は八角形になっています。

フランス、オランダでも大型船は時期的には英国より遅れますが、8角形になっていたようです。

また次回をお楽しみに(^o^)/