CG造船模様 バウンティ号

CG Bounty 新シリーズです。
CGで帆船の造船の様子を再現し一緒に勉強しましょう!

モデルとなる船は、英国のバウンティー号です。バウンティ号は1783年ハル川の第2ドックで建造されていますが、今回はドックではなく、船台(スリップ)での建造を再現します。(^o^)/

18世紀の英国のシップ・ヤード(shipyard)の風景を再現してみました。
大きな建物がありますが、ここでは真っ黒な床に、原寸大の設計図をチョークでひいて、木材に線を書いてきます※1英国の造船方法の特徴で、「モールド」呼ばれる作業です。ここでフロアーストック、1stストック、2ndストックと部材ごとに切り出して、地面でフレームに組み上げてシーアsheerと呼ばれる合掌式のクレーンで両サイドから引き起こしてキールに据えます。フレームファースト方式と呼ばれる英国の建造方式です。

木材置場に丸太がゴロゴロしています。
この当時、排水量1tあたり2ロード(2.7m3 丸太2本)の木材が必要とされていたようです※2
200tのバウンティ号なら400本のオーク材が必要ということになります。オーク50本育成に1エーカー必要といいますから8エーカー約3.2haの森林が必要ということが分かります。樹齢80年~120年のイギリス・オークは直径60cm~90cmにも達する良材を使いました。1ロード4ポンドちょっともしたようですが、現在の価値で約900ポンド(※3)で約13万円で現在のオークの価格からすると大変廉価です。17世紀はじめに良材で作られた船の寿命は100年だったようですが、18世紀末のバルト海の輸入材の船の寿命は20年もなかったようです

木材置場の奥の小さな2棟続きの壁のない小屋が「ソゥ・ハウス」とか「ソウ・ピット」と呼ばれる鋸小屋です。キール材、フレーム材、外板などここで、ピット・ソウという鋸で丸太から2人がかりで鋸引きします。英国は手作業ですが大陸では水車や風車の機械鋸で挽いています。英国は機械に偏見があったようです※2

 スリップウエイの左手の小さな煙突のある建物は「キルン」とか「スチーム・ハウス」「スチーム・トランク」と呼ばれます。木材を曲げるためにスチームで蒸し焼きにする場所です。1736年頃に導入されました。※2
今でもこれと同じ様に蒸気発生器を木箱に導き曲げ加工する道具が売っています。amazon
  蒸す時間は曲げる材の大きさ1インチ(25.4mm)あたり1時間です。造船所では8~9時間蒸したようです。厚さ1インチ(25.4mm)のオーク材を半径1インチ(25.4mm)で曲げることができたと言われています。※2
レンガ作りの建物の中で、先ほどのモールド作業の他、マスト加工やロープ加工、滑車作りなどをします。

船台は海(実際は河ですが)へ向けて約5度の傾斜がついています。 進水式のときに滑るようにするためです。船台(スリップ)の基礎は船の重さに耐えれるように、砕石を敷き詰めたり約30cm以上掘り下げて、オーク材を敷き詰めています。

船台(スリップ)の周囲には足場が組まれています。ここで、約1年かけて造船作業が進められます。

キール・ブロックの据付

最初の作業は、船台(スリップ)の上にキール・ブロックの積み上げです。
16インチ角(30.5cm)長さ3フィート(97cm)の角材を数個積み上げます。
キール・ブロックは船尾から船首方向に船尾に高く、船首に低く積み上げます。
間隔はおおむね5フィート(1.5m)間隔で積んでいきます。
高さは、船尾で最低2フィート(61cm)の高さをとります。これはキールの下を船大工がくぐれるようにするためです。※4

進水時は、キールの両側にレールを敷設し、船首・船尾にクレードルという支えを設置します。後から置いたクレードルには重量が載りませんから、このキール・ブロックを崩すことで船の重量をクレードルに載せます。クレードルとレールの間には油がたっぷり塗ってあり、滑らせることができます。

キールの据付

最初の造船作業が、上にキールの据付です。
工事の開始日をkeel laidなどと表現します。


キールは大変長いので、1本の木からは作れません。

5~7m位の長さのもの4本をスカーフと呼ばれる継ぎ手で継いで長いキールを得ます。


 

 

スカーフ(継ぎ手)の幅は4フィート強で1.4mもの長さがあります。

まず下穴をオーガであけます。

 

 


この当時にはドリルがありません。ドリルは1770年以降に出現したようですが、一般的に使われるようになったのは19世紀に入ってからです。※5

オーガといわれる半月状のノミの様な錐で穴をあけていました。数日かかりで穴をあけたようです。

あけた穴の内側は熱した鉄棒で焼いて防腐処理をします。

これに直径3cm程度の鉄製のボルト8本を通して、クレンチします。

 

 


ボルトといってもネジは切ってありません。

 

 

 

 


 クレンチといってボルトの末端にワッシャを入れて頭をハンマーでたたいて潰してマッシュルーム(皿頭)をつくって固着します。

 

 


ボルトといってもリベットのようです。

ネジ自体は15世紀後半に登場しますが、1780年頃にモーズリーがネジ切り旋盤を開発するまでは加工精度が低く一般化しませんでした。


 

互換性のあるボルトとナットが開発されるのは1840年頃といわれています。

 

 

 


ところで、英国船はスカーフをサイドbyイサイドにかみ合わせ左右方向にボルトで締め付けます。

一方、フランスではスカーフを上下にかみ合わせ上下方向にボルトで締め付けます。

英国がなぜサイドbyサイドにしているか、その理由は定かでないとフランスの文献にあります。※6
実際にはキールの負荷がホギング、サギングで主に上下方向なので、この方向の負荷には英国式が有利ですが、キールの継ぎ目が上下に抜けているので漏水の危険があります。この点でフランス式が有利です。


 こうやって、複数の材から一本のキールを仕上げます。

今回はここまでです。(^o^)/

 

 

次回は

 ステム(船首材)を地面上で組み立て合掌起重機で立ち上げます。

 

 

 

 その後、スターン(船尾材)も地面上で組み立てキールのホゾ組で立ち上げます。、

ちょっとした見せ場です。

そのあとフトックをキールの上に並べていきます。

こういった様子をご紹介します。お楽しみに(^_^)/!!

※1  The Master Shipwright’s Secrets: How Charles II Built the Restoration Navy P198

※2 図説英国の帆船軍艦  P16

※3 帆船時代のポンドを現在通貨に変換するにはBank of England イギリス中央銀行のHPが便利です。

※4 Seventy Four Gun ship VOL1 P65

※5 Building the Wooden Walls: Design and Construction of the 74 Gun Ship Valiant P72

※6 18th Century Shipbuilding: Remarks on the Navies of the English and the Dutch P63