帆船豆知識 №7

例会などで出た素朴な疑問にお答えする帆船についての豆知識のコーナーです。

今回は、カロネード砲って榴弾砲?です。

 

 18世紀後半以降の英国船にはカロネード砲という太く短い大砲が積載されています。

上甲板に設置され、車輪のない架台に載せます。

特徴的で模型制作でも気になる大砲です。

そこでカロネード砲は「榴弾砲なのか?」と素朴な疑問が出てきます。

現代火砲では、防衛技術協会刊行の火器弾薬技術ハンドブック 改訂版を見ると769ページに

〇カノン砲 45度以下の低射角で直線的弾道のものとあり、戦車砲や高射砲もこれに含まれますと説明されています。
〇榴弾砲:低射角と高射角両方を使い、射程距離を射角だけでなく装薬の加減でも行うとされています。
これらの定義から考えると榴弾砲にもなりえそうですが、カロネード砲の仰角はせいぜい数十度ですから45度以上の高射角での発射はできません。

帆船時代の榴弾砲の定義はどうだったのでしょうか?
当時の海事辞書を見てみましょう。
1784年の海事辞書An Universal Dictionary of the Marine 1784をみると榴弾砲HowitzerはMotar臼砲の一種と記述されています。現代の感覚では逆で臼砲が榴弾砲の1種なのですが、帆船時代では臼砲の一種に榴弾砲があるという状況です。また、水平にも発射でき、大口径のものが発明されたが、船舶用にはめったに使用されなかったとあります。カロネード砲については載っていませんでした。

ここで、臼砲Mortarがでてきますが、これはボムケッチなどの小型の船から45度の角度で大変短い太鼓のような大口径砲で要塞攻撃用の臼砲です。

口径は10~13インチですから、33cmもあったことになります。なおかつ炸裂弾ですから威力絶大です。この陸軍の要塞攻撃兵器が船舶火器に転用されました。

ボム・ケッチ、1681年にフランスで5隻、翌年にも5隻建造します。
英国では、1687にウール・ウィッチ造船所でサラマンダー号134tをデット・フォード造船所で建造。

ファイヤー・ドレイク号279tが起工建造されます。これらの船は、31cm青銅製の臼砲を2門搭載していました。

結構活躍したようです。臼砲の特徴は、大変砲身が短く(口径の1.5~3倍)また肉厚が大変厚く、薬室は円柱ではなく円錐状で装薬量によって射程距離を調整しやすいように工夫されています。
仰角は45度に固定されるため、砲耳は砲尾に付きます。また大変重たい砲です。

カロネード砲は、これより遅れて18世紀後半に出てきます。

榴弾砲Howitzer
の別の辞書「An Universal Military Dictionary1779」に臼砲Mortarの随分後に発明されたと記載されています。

 

 外観は近代の榴弾砲(口径の20~30倍の砲身長)とは全く異なり、口径の4~5倍と砲身は大変短いです。

むしろ臼砲に概観は似ています。

 大砲の書として有名な「A Treatise of Artillery」を見るとドイツの発明で陸軍でも1720年までは使われず、船では滅多に使われなかったと紹介されています。

榴弾砲が有名になるのは陸軍でも19世紀で、「ナポレオン砲」が有名です。口径121mmの9ポンド榴弾砲で、縦横無尽に馬で機動し活躍しました。この砲は砲身も長く近代榴弾砲に近いものです。
ただ、この時代でも榴弾砲は、海戦では殆ど使われなかったようです。帆船時代の海戦は50mくらいの至近距離で撃ち合います。そうすると、放物線軌道で大きな弾を撃つという榴弾砲の出番は想像しにくいです。
また、陸軍では馬で台車に乗せて大砲を運ぶため、カノン砲より軽量に製造できる榴弾砲Howitzerにメリットがあります。友軍の歩兵の後ろから頭越しに放物線軌道で射撃できることは、陸軍では大きなメリットだったと思います。
しかし海上ではこれらのメリットは意味がありません。現在でも船舶に榴弾砲を装備することは大変稀です。

榴弾砲の薬室は円錐状で装薬量によっても射程の調整ができました。
肉厚はカノン砲よりやや薄いです。装薬量がカノン砲より少ないためです。
砲耳は砲身の中央に付きます。陸軍では、車輪のついて架台に載せて移動しながら、仰角も調整し発砲していました。口径5.5インチ(142mm)もありますが、やはり8インチ(205mm)、10インチ(254mm)が多かったようです。10インチで1.5tくらいあったので、馬6頭で引いていたようです。
海軍でも臼砲の代わりに使われてもよさそうなものですが、使われなかったようです。

カロネード砲は1779に英国スコットランドのカロン社で発明された軽量砲です。

6、12,18,24、32,42、68ポンドの種類があったようです。カロネード砲には砲耳は付きません。旋回する砲台に固定されます。仰角はネジ式で調整します。
そのため、取り扱いの人数がカノン砲よりのグッと少人数で済みます。
この大砲のコンセプトは単純です、上甲板の6ポンド砲の代わりに32ポンド砲を設置してパンチ力を発揮することです。そのため軽量に作る必要があり、砲身を短くして、肉厚も薄くしてカノン砲より軽量に仕上げていいます。

32ポンド・カロネード砲は6ポンド・カノン砲と同じ重さでが肉厚を薄くしていますから、当然炸薬も少なく射程が270m弱と短くなっています。
ただ反動も弱くなっています。近接戦で使う限り、射程の短さは問題でなく、操作のし易さとあいまって大変なパンチ力を発揮したようです。
発射する弾丸もソリッド弾(鉄の弾)がメインでぶどう弾やチェーン弾も発射しました。
つまり弾種はカノン砲と同じです。照準もカノン砲と同じ砲身の凸部による直接照準です。フランス艦にも直ぐに採用されたようです。
しかし、カノン砲の発達し、ライフル砲が導入されるとカノン砲の射程距離が長くなります。そのため1850年以降にカロネード砲は、姿を消します。

ですから、カロネード砲は短砲身・軽量砲でが榴弾砲ではく軽量のカノン砲というべきでしょう。炸裂弾を発射するわけでなく、直接照準の砲です。

帆船への榴弾砲Howitzer搭載は基本的に「ない」と考えた方が良いようです。
 4種の砲を並べてみると同じ直径の弾丸でも、これだけの砲の大きさの差になります。

口径8インチ(20cm)砲弾でみると

カノン砲が4t カロネード砲が1.8t 榴弾砲が0.6t 臼砲0.5tと大きな差があります。

砲の丈夫さを砲腔の肉厚でみるとカノン砲と比べても臼砲は肉厚が分厚いことが分かります。カロネード砲の肉厚が極端に薄いことが分かります。榴弾砲はやや薄い程度です。

断面図で薬室の違いを見てみましょう。まず、榴弾砲は砲身の4割くらい、臼砲は砲身部分と同じくらい薬室の長さがあります。薬室の形状を見ると、カノン砲は円筒状で、薬室と砲身は同じ径です。カロネード砲は砲口がやや広くなり薬室部は円錐状です。これは装薬が少ないことを意味します。

 余談ですが、カロネード砲はカノン砲よりwindage(弾丸と砲腔の差)が小さいかったと言われます。カノン砲が7.6mmもありましたが、カロネード砲は3.8mmだったといわれています。
榴弾砲と臼砲の薬室は円錐状です。これは、薬室の装薬量を変化させて射程距離を変化させるためにこういう薬室になっています。

榴弾砲は19世紀陸軍で活躍しますが海軍には殆ど使われていません。

海軍では大型の臼砲を使っており、このサイズになると臼砲と榴弾砲に差がでないことが断面図からも分かります。
このことも海軍で榴弾砲が好まれなかった理由かもしれません。

今回はここまでです。また次回をお楽しみに(^^)/